国木田独歩について(2018年2月号)
宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜
今回は小説家「国木田独歩」についてお話してみたいと思います。
今から23年前、地ビールを始めるにあたり、そのブランドを決めるのに一般公募した結果、「独歩」というすばらしい名前をいただきました。その時以来国木田独歩はなぜ「独歩」というペンネームをつけたのだろうかということが気になっていました。 そこで、独歩の本を集め、研究を始めています。
「国木田独歩」は、明治4年(1871)7月15日に千葉県銚子市に生まれ、幼名を亀吉といい山口県で育ちますが、早稲田大学入学後18歳の時哲夫と改名しています。そして、明治30年26歳の時、「独歩吟」という詩集を寄稿し、その時以来「独歩」と署名するようになりました。「独歩吟」の中には「山林に自由存す」という有名な詩があるのでご存じの方があるかもしれません。独歩は自然主義文学者と言われますが、ドナルド・キーンの「日本文学史」近代・現代篇2では、「明治文学を通じて、もっともすぐれた短編作家」であると称讃しています。
結論からいえば、なぜ国木田独歩が「独歩」と名前をつけたのか、今のところわかりません。ただ、ヒントとして考えられるのは、明治4年中村正直によって翻訳された「西国立志編」(サミュエル・スマイルズの自助論、セルフヘルプ)を独歩が愛読していたことと関係があるかもしれません。明治36年32歳のときの「非凡なる凡人」という小説のなかで主人公桂正作に「もし僕が西国立志編を読まなかったらどうであろう。僕の今日あるのは全く此書のお陰だ」といわせています。「天は自ら助くる者を助く」、この自助の精神こそが独歩という名前に繋がったのでなないかと推察しています。
ところで、独歩は明治41年6月23日肺結核のため享年38歳で亡くなりました。独歩は死にいたるまで、ひそかに病床で泣いていたそうですが、早い死でした。明治の作家の中には若死が多い。正岡子規35歳、北村透谷26歳、樋口一葉24歳、夏目漱石49歳、芥川龍之介45歳、宮沢賢治37歳、梶井基次郎31歳、太宰治39歳等です。
明治時代半ばの平均寿命は四十代前半だったそうですが、明治維新から150年かかつて実現した今日の日本人の長寿社会は本当にすばらしいことだと思います。