生活様式の変化と高度成長(2012年10月号)
宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜
日本人の生活様式が戦前と異なり、大きく変化することになったのは、1950年代半ばから70年代初めにかけての、日本経済の高度成長によってもたらせられた現象といえる。
朝鮮戦争による特需景気によって復興した日本経済は、特需依存から脱却、輸出の好調と設備投資の増大、そして国内市場の拡大に支えられて1956年から1970年の平均実質GDP成長率が約10%という高度成長の軌道に乗ることができた。すなわち、1955年から57年の神武景気、1958年から61年の岩戸景気、1962年から64年のオリンピック景気、1965年から70年のいざなぎ景気と間断なく高度成長を続けることになった。
その結果、1950年代後半には、白黒テレビ・電気洗濯機・電気冷蔵庫が「三種の神器」と呼ばれる耐久消費財が普及し、1960年代後半には、カー・クーラー・カラーテレビが「3C」と呼ばれるようになり、日本人の日常生活に消費革命が起こった。また、食生活においても、肉類や乳製品などが普及し、一方、米や日本酒をはじめとする伝統的な食品の減少がみられるようになり、食生活の洋風化が進むこととなった。このように日本人の生活水準は、飛躍的に向上し、日本人の生活様式は一変することとなったのである。
ところで、私は日本酒の消費量減少の主な原因は、この日本人の生活様式の一変にあると考えている。日本酒の需要のピークは1975(昭和50)年頃だが、日本人の生活様式が洋風化に変っていくのと一致するのではないかと考えている。その後は一貫して日本酒の消費量は右肩下がりに長期的に減少するのであるが、日本人が高度経済成長の時代に憧れた生活様式の洋風化の流れを基本的には今日まで引きずっていることが、日本酒離れの原因ではないかと考えている。もちろんその間に、石油ショック、バブル、バブルの崩壊、金融危機、デフレ、リーマンショック、欧州経済危機と大きく経済環境は変化して今日を迎えるのであるが、現在の日本人の生活様式の原点はやはり戦後の焦土の中から復興を果たし、高度成長を実現した頃の洋風化への憧れにあると言っても過言ではないのではないかと考えている。
さて、日本経済の現在の停滞を脱出するためには、高度成長時代に抱いたこの洋風化の憧れへの引きずりを捨てて、新しく日本的なものに憧れを感じる文化的価値を構築することが求められているのではないかと思う。その時には、日本酒の価値が見直され、改めて出番がくるのではないかと考えている。