世界の酒の中の日本の酒(2008年5月号)
宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜
日本酒の需要の長期的低迷が続いているが、その原因は複合的であると考えられ、これだという一つの原因を特定することは困難なように思える。
私は、いろいろ考えられる原因の一つとして、世界の酒と日本酒の競争において日本酒がじわじわと押されているのではないかと考えている。日本人は太古より、米の酒、日本酒を神に奉げ、飲み続けてきた。まさに、酒とは日本酒をさしてきたのである。
しかしながら、戦後から今日にいたる60年間において、日本人の酒に対する意識は大きく変化したと言わざるを得ない。まるで、禁断の果実の味を一度知ったアダムとイブのように、外国の酒をありがって飲むようになってきたのである。何も酒だけに限定することもなく、衣食住の生活様式すべてにおいて、外国、特に欧米的なものを素晴らしいものとして受け入れてきたのである。
着物、畳、お米、そして、日本酒などの日本の伝統的な文化が衰退し、西洋文明に飲み込まれようとしているのではないかとの危惧を抱かざるをえない。
確かに、ワイン、ビール、ウイスキー、ブランデー、シャンパンなどの西欧の酒のよさを日本人が理解したとしても不思議なことではない。 和魂洋才とは、欧米的なものを受け入れたとしても、魂という意識の根底ともいうべき領域においては日本的なものを忘れないということであろう。
ところで、私は、日本の酒造家の立場として、世界の酒の情勢に無関心であってはならないし、日本人の和魂にのみ依存してはいてはいけないと思う。
西洋の酒のよさはどこにあるのか。なぜ、日本人が洋酒を好むのか。酒造家として、その原因について比較研究し、日本酒のよさをもっとわかりやすく日本人に説明していかなければならないと考えている。
「世界の酒の中の日本酒」として日本酒のよさをより客観的に見つめ直すことから始めることが、日本酒の復興の一歩ではないかと思っている。
折しも、日本酒の良さが欧米において認識され、消費が増加していることは何よりもこのことを示していると思われるからである。日本酒の輸出を通じて、日本酒のよさをグローバルに展開していくことが今日ほど必要なことはないと思う。