規制緩和という悪夢(2007年3月号)
宮下酒造株式会社
社長 宮下附一竜
最近、酒類業界において、M&A(合併・買収)のニュースがたびたび報じられますが、これらの現象は、酒類業界が大きな変動期を迎えていることを表していると思われます。
サッポロビールの買収提案が外資系の投資ファンドからなされ、ビール業界の再編の可能性も高まっています。また、ワイン大手のメルシャンはキリンビールに買収され、アサヒビールはカゴメと提携しています。このように、大手企業はM&Aによって総合化を図り、成長力を強化しようとしています。これらの背景には、人口の減少による需要の先細りや寡占企業による競争の激化があると思います。
それでは、このような変動期に私たちはどのように対応していけばよいのでしょうか。その対応の仕方が今問われているように思います。
たとえば、酒類小売業界においては、免許制度の改正という大きな環境変化がありました。酒販免許には、人的要件と需給調整要件とがありましたが、需給調整要件である、「距離基準」は平成13年1月1日に、「人口基準」は平成15年9月1日に廃止され免許の実質自由化が実施されました。そして、平成18年9月1日より経営難の割合の多い地域を「緊急調整地域」に指定する制度も失効し、人的要件等に問題が無ければどこでも、誰でも酒販免許が取得できることになりました。その結果はスーパーやコンビニなどの組織小売業が台頭することになり、一般酒販店の減少と苦境につながっていると思います。
これらの免許制度の規制緩和は、約10年も前から予想されていたこととはいえ、その打撃は大きなものがあったといえると思います。
内橋克人氏は「規制緩和という悪夢」という本の中で、「日本の規制緩和は、たいへん危険な劇薬を患者にまったく知らせずに投与しているのと同じである。」と述べていますが、まさに酒販業界は規制緩和という劇薬を飲まされたといっても過言ではないと思います。そのマイナスの副作用が一般酒販店に顕著にあらわれ、辛酸をなめることになっていると思います。
それでは、どのようにすればこのような環境変化にうまく対応できるのでしょうか。時代の動きや外部環境の変化は自分たちでコントロールすることはできませんので、その対応は大変困難なことであるといえると思います。
従って、外部環境の変化をすばやく察知し、早め早めに手を打つことでチャンスをつかんでいくことしか勝ち残る方法はないように思います。「時代の動きや環境変化に敏感である」ことが最も大切なことのように思います。