1915年創業の蔵元「宮下酒造」は岡山市中区西川原にあり、清酒「極聖」は地元で親しまれる。その老舗が生んだ地ビールが「独歩」だ。ドイツからブラウマイスターと呼ばれる醸造技師を呼んだ。本場ドイツ仕込みで「独歩」と名付けたが今では岡山産地ビールの「雄」として”ひとり歩き”している。
口に含むとさわやかな苦みが広がり、コクの深い甘みの余韻が舌に残る。のど越しすっきり、くどさはない。濃い黄金色のビールは、大手メーカーの製品と異なる味わいで通ののどをうならせる。
酒造りに重要なのは水だ。旭川の伏流水が約100年にわたって宮下酒造の酒に使われた。85年に選定された名水百選の「雄町の冷泉」(同市中区)と源流は同じ。江戸時代に岡山藩主・池田家の御用水として茶の湯に使われてきた名水だ。
その名水が「独歩」を生んだ。材料にこだわり、ドイツから麦芽やホップ、酵母を輸入する。おいしいビール造りに妥協はない。
宮下酒造が地ビール造りに乗り出したのは日本酒消費量の低下▽杜氏の高齢化▽ビール製造の規制緩和―といった背景があった。日本酒は冬季に仕込む。しかも当時の腕が不可欠だった。ビールなら、1年を通じて生産できるとの判断も働いた。
「独歩」は多種多様に広がった。今やビール9種類、発泡酒5種類。主力となったピルスナー・タイプはどんな料理にも合う。
地ビール人気にかげりが見え始めた05年ごろから変わり種も開発した。カキに合う白ビール(冬季限定)▽ウナギに合う黒ビール(夏季限定)▽岡山名産の桃の天然果汁を加えた甘い香りの発泡酒▽岡山名産マスカットの天然果汁を使用した発泡酒―など工夫をこらした。
宮下酒造は「ドイツのビールは土地によって味が違う。日本の大手ビールの味は同じ。”独歩”はオリジナルを追及する」と自信をのぞかせる。
「独歩」は岡山市内のスーパーや居酒屋で販売し、インターネットを通じた通信販売でも購入できる。問い合わせは宮下酒造(086・272・5594)。