大学って、どんな人たちが、何を勉強している場所?――。地域の人たちの、そんな素朴な興味にこたえようという動きが大学で広がっている。出店の運営、催しへの協力、新商品の開発・・・・・・。形態は様々だが、いずれも地元に深く溶け込み、「地域貢献」を志している点で共通する。大学と地域のきずなをどう強めていくか。その取り組みを追った。
今年7月、宮下酒造(岡山市西川原、宮下附一竜社長)から、岡山大学産のコメ100%の日本酒が発売された。学生歌の一節からもらった名前は「おお岡大」。ラベルには学生歌の歌詞も印刷されている。「すっきり飲みやすい味」と評判で、東京や大阪などに在住の卒業生からの注文も多いという。
岡山大農学部付属山陽圏フィールド科学センターには、岡山市津島桑の木町のキャンパス内と、玉野市八浜町大崎の農場に計約10ヘクタールの水田がある。キャンパスの水田では毎年、農学部1年生が田植えの実習をし、2年生の一部は助走や稲刈りを体験する。収穫されたコメは「岡大ライス」として、キャンパス内の販売所で市民に売るほか、大学生協の食堂で提供される。
「コメがあるなら、学会などの会食の際に食堂で提供する地酒が造れるのでは」――。大学生協の理事に昨年就任した、フィールド科学センター担当の斉藤邦行教授(作物学)は、こんなアイデアを温めていた。毎年収穫されるコメ約45トンのうち、約半分は岡山以外であまり栽培されていないアケボノという品種。粒が大きく、日本酒用にも向いている。発酵が専門の神崎浩教授(応用微生物学)がこの話を聞き、「岡山大の存在感をアピールできる品になるかも」と、県酒造組合連合会を通して今年1月、宮下酒造に打診した。
宮下酒造では、岡山大のコメで仕込むのは初めてだったため、酒造りに向いているかどうかがわからないので、純米酒や吟醸酒ではなく、本醸造酒として仕込んだ。味や香りをよくしようと、コメの重さが元の70%になるまで精米した。仕込みを担当した社長の長男の宮下晃一工場長(29)は「酵母の種類を変え、香りは控えめで味がまろやかな酒を目指した」という。
酒の名前は、宮下酒造と両教授らが相談して「おお岡大」に。ラベルは宮下酒造で考えた複数の案を、神崎教授の講義を受ける学生を対象にアンケートして決めた。720ミリリットル入り1050円(税込み)で、計3千本を販売した。大学周辺のコンビニやしないの百貨店で販売しているほか、大学生協食堂でメニューに取り入れている。手ごろな値段なので、学生が帰省するときなどの手みやげとして人気という。
斉藤教授のもとで稲作を研究している大学院生の大江和泉さん(26)は「研究室を訪れる卒業生らと一緒に飲むことも。フルーティーでおいしいですよ」。
評判を受け、宮下酒造では2シーズン目に、本醸造酒のほかに、より高級な純米酒も仕込、セットで販売することを計画している。